町のパン屋さんの当たり前を疑う
著者は親から継いだ町のパン屋さんを大胆に変えて、少人数でもやっていけるパン屋さんにしました。
町のパン屋さんではたくさんの種類の中から選ぶことも楽しみなのですが、この店ではパンは4種類程度しかつくらないという、従来とは真逆の発送。
それは、ヨーロッパのパン屋さんを見学して学んだのです。
そして著者は、この経験は他の業種にも応用が利くのではないかと言っています。
自分の店なんだから、自分がやりやすいように変えていけばよいのですね。
素材に良いものを使い、手間はかけない
今のパン屋さんは、安い材料を使って、添加物でまとまりやすくするというのが一般的らしい。
安い小麦粉だと生地がダレるから、ダレないような食品添加物を、というような対処療法的な新製品を、食品メーカーはどんどん開発してくる。
それをすすめられるままに使っていると、質も落ちるし、温度管理も厳密になったりして逆に手間もかかる。
小さなパン屋でも菓子パンや調理パンを何種類も作るのが当たり前だが、1日の終わりに必ず売れ残りが出る。
売れ残りを捨てても利益が残るような安い材料を使っているわけだが、著者はそういう安直なサイクルを根本から見直した。
商品の種類を思い切って絞り、材料は良いものを使って、売り切れる分だけ作る。
そのほうが、無理に手を加えなくてもおのずとおいしいものができるし、食品廃棄も少なくできる。
朝から晩まで働かない
田村氏は町のパン屋の3代目だった。
軽薄な菓子パンを敵視してパン屋だけはやりたくないと思っていたが、いろいろあって引き継ぐこととなった。
古くからパンが主食だったヨーロッパで、パンの作り方を学んでみると、パン屋は帽子もかぶらず、結構いい加減に作っていた。
髪の毛が入るくらいは人間が作っているんだから当たり前という考え方で、客もそんなことにクレームをつけたりしないらしい。
なにより労働時間の短さに衝撃を受けた。
大きな窯で一度に焼いて、作業は半日で終わってしまう。
卑屈な接客をしなくても売れる
自分の立ち位置を鮮明にしていれば、いちいちぶれなくて済む。
あまりにも普通のパンと違うので(焼き色が濃いとか)、理解できないお客さんもいてクレームがきたりする。
でもそういう時は、その理由を聞くだけ聞くがそのままさようならである。
好みの合わない一部のお客さんの言うことを聞かない。そういう客さんはよそへ行ってもらえれば良いと割り切っている。
正反対のケーキ屋の本
ところで私はこの本を、井出留美の「あるものでまかなう生活」という本で知ったのだが、この本の中に列記されていた参考図書の中で、この捨てないパン屋とは全く正反対の考え方のパティシエの本も紹介されていて、井出留美氏のそのまとまりの無さを興味深く感じた。
やっぱりまだまだ、コンテストで優勝して名前を知ってもらったり、大勢の従業員を雇って切磋琢磨したり、そういうやり方をやっていて達成感を得て満足する人もいるわけだ。
また、この本(「あるものでまかなう生活」)はタイトルに惹かれて読んだのだが、内容は私の期待するものとずれていた。
井出留美氏は実践者というよりあくまでも仲介者という立場なのであった。